ユラリ、ユラリと何かが揺らめく
ソレは常に感じていて
ユラリ、ユラリ
それは次第に、大きく揺らぎ始めだして
まるで風に吹かれて消えてしまいそうな、蝋燭の灯火のように

「影先輩」

不意に彼女に名を呼ばれると、揺らめく感じが弱まった
振り返ると、いつもの表情で彼女が私を見ていた
いつからか
私が彼女や彼女の幼馴染と、行動を共にするようになったのは
昔から、人とやり取りをするのはあまり得意という訳ではなかったのに

「ん？どうかした？」

そう聞けば、彼女は「呼んでみただけです」と笑った
その答えに「またかい！」と突っ込めば、また彼女は笑った
何故
何故
私はこんな、眩しい世界にいるのだろうか
何故、ナゼ
私は･･･”まだこの世界にいるのだろうか”
人と関わりあうと、私の中にある蝋燭の灯火が
ユラリ、ユラリと揺らいで･･･消えてしまいそうになるというのに
この蝋燭は、私の心
灯火が消えれば、残るのは闇のみ
そうなれば、私というモノが壊れる
だから私は囲った、心という蝋燭を･･お面という紙の囲いで
紙で出来た狐の形を象ったお面を付けて
皿にその下に目隠しを付けて
外へ出る時は、いつもそうして壁を作った
灯火が消えないように、眩しい世界で過ごせるように
人と関われば、私の灯火はすぐに揺らぐ
揺らいで揺らいで、最後には消える
そうなれば元には戻せない
何となくだけど、そう思った
だから常にお面と目隠しをつけていた
表情が見えない方がいい、気取られる事が無いから
けれど、いつからだろう
そのお面と目隠しを外してしまったのは
彼女達と出会った当初は、いつも身につけていたというのに
いつの間にか、手元から消え失せていた
あぁ、あぁ･･･
あのお面と目隠しは、一体ドコヘイッテシマッタノ？

「全く･･･朱月ちゃんは･･･」
「ハハっ」
「朱月！影之！」
「そろそろ行くぉ～」
「あ、はーい！」

呼ばれて、そちらへ行く見慣れた背中
遠ざかっていく、その存在
不意に揺らいだ、灯火

「影之？」
「影先輩～？」
「置いてくぉ～？」
「あ･･っ、今行きま～す；！」

慌てて駆け出す、両の足
こっちを見てるみんなの所へ、向かおうと走る私

『もウ･･戻っテ、おいデ･･？』

脳裏に浮かび上がったその言葉
思わず、私は立ち止まってしまった

『自覚してテる筈ダよ･･･そっチの世界ハ、君ガいるベキ世界じゃナいと』

まるで耳元で囁かれるように、脳裏に浮かぶ言葉達
盛大に、灯火が揺らぐのがよく分かる
今にも･･･消えてしまいそう

「影先輩」

その声と共に、手に触れる他者の温もり
顔を上げると、見慣れた表情がそこにあって

「みんな待ってますよ」

そう言って、彼女はいつもの笑みを浮かべた
さっきまで消えてしまいそうなくらい揺らいでた灯火が、途端に元の静寂を取り戻していた

「あ･･･うん、ごめん」

私はそう言って苦笑して、軽く手を引かれながら歩き出した
あぁ･･彼女がいてくれるから、私はまだ”この世界”にいられるんだ

「お待たせしました」
「んじゃ、さっさと次の町に行こうぜ！」
「はいですお～」

けれど･･いつか、いつの日か
この灯火が、消える時が来るだろう
私がこの世界に居続ける限り、人と関わりあう限り
もう、あの頃のように
風を遮る囲いは、もう私の手元に存在しない
だから、もし消えてしまったその時は
私が彼等の前から、消えるしかないだろう

「さ、行きましょう影先輩！」
「うん、そだね」

ごめんね、ごめんね？
私には貴方達のいる”この世界”が、あまりにも眩しくて
とても、最後まで一緒に行けそうにないんだ
でも･･･時が来るまでは、一緒にいるよ
だって、もっと見たいから

「さぁ、行こうか」

みんなといる、この眩しくて温かい世界の事を

[3回]